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【本】不自由な心/ 白石一文 3

 

不自由な心 (角川文庫)

不自由な心 (角川文庫)

 

 

「さみしさで、人間は壊れてしまうわ」
 
四編目、「水の年輪」にて、主人公が不倫相手の仁美にはじめて心を許した時の、仁美のセリフ。自らの命が後少しだと知り、やりたいことをやると宣言し、仕事もやめ、家庭も捨て、彼はどこへ向かうのか…と言った趣の話。
 
慣れてしまったため違和感を抱くこともなくなったが、どの作品でも彼は結婚を非常に軽く、もっと言えば悪いものだと考えているよなあ…
この短編集全体のテーマとして、人はとにかく人との繋がりを求めていて、それがもっとも重要なんだというところがあり、そして、それを焦った結果の一つが結婚だと捉えているのかも。
物語終盤、主人公が何を感じていたのか、人との繋がりがこそが生きることであるという立場に立ってみてもう一度考えなおしてみると面白そうだ。
 
印象的な表現をピックアップ
 
・兄は死を目前にして、もう一度自分を新しくしたかったのだろう。
 
・そう思うと、本当に遠いところまで運ばれて、今の自分になってしまったような気がする。
 
・やはり真由美に自分が話すべきことなど一つもありはしなかったのだ、と三枝は感じた

 

・何人たりとも心の奥底から自分の死を恐れることはできない。ただひたすら他人の死を見つめ、その死を恐れるのだ。そしてその恐怖心こそが真実の愛情の唯一の源泉でもある。満代にはそのことが見えなくなってしまったのだ。
 
五編目、「不自由な心」の一節。なんだかさっとあらすじを描くのが難しい…物語の向かう方向としては、上の文章を含んだ最後の数ページで概形はわかるのだが、なんだろうか、物語としてどうなっているかつかみにくい…よくよく考えてみると言葉にできるほどうまく捉えられてなかったのでしょう…
 
印象に残ったフレーズのみ残すことに。
 
・「男と女はなんにしろ一緒にいると楽しくなるようにできてるからね。少なくともお互いのことをよく知るようになるまではさ。」
 
・たとえどんなに辛くとも、どんなに哀しくとも、自らの命を投げ出してまで1人の人間を縛り付けようとする行為は、絶対に間違っている。