文化的な生活

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幸せの条件/ 誉田哲也

全体通してネタバレはほとんどしていないつもりです。
 
 誉田哲也氏の作品はコレがはじめて
ミステリーや高校生の青春小説を多く書いておられるようですが、いずれもそんなに好きなジャンルではないので、まずは自分が読みやすそうな作品から、ということでコレをチョイス。

 

幸せの条件 (中公文庫)

幸せの条件 (中公文庫)

 

 ガラス器具を扱う会社に務める主人公の梢恵。落ちこぼれの理学部生だったおかげで専門的な仕事はほとんどできず、事務や会計の仕事ばかり。仕事は面白くないし、恋人ともなんだかうまくいかない。そんなとき、社長の片山の急な思いつきから、長野まで単身商品の営業に行くことに。バイオエタノールのためのコメをうえてもらってこい!案件が取れるまで東京に帰ってくるな!全く案件が取れず、ついに梢恵自身が農業をやることに!どうなる梢恵!と言ったお話。

 
 以下読書感想文
 
 私は農業のことに詳しくないので嘘かホントかは判断できないが、農業のプロセス、農家の抱える問題、そのようなことが非常にわかりやすく書いてあり、農業初心者梢恵とともに疑似体験できる。もちろん農業の知識だけでなく、農業に携わる登場人物たちの人間模様もいきいきと書かれいる。登場人物たちはそれぞれみんな一癖あり、あたたかい。
 
 「職場があって、パートナーがいて、自分の子供をこの環境で育てられて、それの一体、何が不満なんだ君は。え? いってみろよ。何が不満なんだ。私にいってみろ。私が納得いく説明をしてごらん。」
全力だから、時には怒りをぶつけあうこともある。非常に良いシーンで、不覚にも涙が…
 
 全体として、農業の疑似体験としても秀逸、登場人物のキャラクターも非常に良いと感じた作品だったが、いくつか気に入らなかった点がある。一つは、東北の震災に関する記述だ。
 
 作中で震災が起こる。そのことについて、いろいろと書いてあるのだが、正直不要だと思った。物語中の人物が実際の震災を体験して、何かしら感じたり、思ったり、ということが書かれているのに対し嫌悪感に近いものを持った。もちろん、震災で農家に大きな被害があったということは理解できる。しかしながら、それを書くなら、ノンフィクションで、ドキュメンタリーでやらないと。気持ち悪さを感じるのは私だけではなかろう。
 
 また、もう一つの好きではなかった点は梢恵のキャラクターに関してだ。震災を通じて農業に対する考えを変えたり、もちろん前向きに成長したということなのだろうが、恋人や親族に対して急に態度が変わったりしていて、そのへんも少し引っかかる部分だった。極論を言えば、ただのわがまま娘じゃないか、という感情を禁じ得ない部分があった。
 
 以上二点はちょっとどうかなと思う部分であったが、先に書いたように全体を通しては、農業の疑似体験と農業を取り巻く人間模様がよくかけていて、読んでいて楽しい作品ではあった。