文化的な生活

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【本】不自由な心/ 白石一文 2

 

不自由な心 (角川文庫)

不自由な心 (角川文庫)

 

 

・「日本人はさ、本当は金儲けのためだけで商売していたわけじゃなかったとぼくは思っている。安っぽくいえば、商売のむこうに幸福の実現がなければ、ぼくたちの仕事はただの労働でしかないからね。」
 
二編目、「夢の卵」において、ものを作りすぎ、ものを捨てすぎる現代の産業に対し、主人公の元上司亀田が発したセリフ。亀田は会社の政治的トラブルに巻き込まれてクビになり、東南アジアにまだ使える文房具を届ける仕事を始める。前の会社には一切未練が無いようで、今の仕事について誇らしく語る。
妻の疾走、病態の父を抱えたうえで、尊敬していた上司の考えを聞かされ、主人公は苦悩し、答えを出す。
 
全体的に、仕方のないこと、何かしら強大な力を感じる。勧善懲悪とか、努力は報われるとか、そんなのとは無縁の世界で生きている感じ。人のつながりがどんどん断ち切られ、裏切られ、どうしたらいいのかわからなくなっていくけれども最後には人に頼ることで答えが見つかる気がするのが、人の生き方なのでしょう。
 
・「結局、事情がどうであろうと、この社会は取り残されひとりぼっちにされたほうが負けなのだ。」

 

そう考えているからこそ、最後は一度見放されたと思った人物をまた頼ろうとする。まずは、ひとりぼっちを脱却しなければ、ずっと負けだから。
人は裏切られ続けても、人と繋がっていないことは出来ないのだ、とまとめてしまえば簡単だけど。
 
上記のような目線で見ていると、構図として主人公がおり、主人公をひとりぼっちにした要因として主に、亀田、由利子、父、が出てくるのだけれども、全員が上記の同じ考えのもとで動いているように感じてくる。いずれきちんとモノにしたいところ。
 
「もし、この子が邦さんの子供だったら、どうだったかしらね私たち」
「本当に嬉しかっただろうな、俺は。」

 

三編目、「夢の空」より。昔不倫関係にあった金親と再開。殆どはその追憶のエピソードが描かれる。最後、自分に死の可能性が迫り、はじめてハッキリと思いを告げる。
 
最後にきっちりとわかりやすいオチを付けている、珍しい作品。良く言えばわかりやすい、悪く言えば俗っぽい。
 
つづきます