文化的な生活

本のこと、音楽のこと、日常のこと。

こちらあみ子/ 今村夏子

 今村夏子氏の、最初の本です。これ以降出すかはわかりません。最初で最後の本かも。太宰治賞と三島由紀夫賞同時受賞作です。
こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

 

  私がkindleで読んだ、二番目の本です。

 
 以下読書感想文。
 
 これほど心がかき回される物語はないと、そう断言できるほど、素晴らしい作品だった。ネタバレをすると少し面白くなくなる作品な気がするので、あまり内容には触れないでおくが、こんなに美しく、こんなに悲しい世界に少しの間だけでも没入できたことは、ああ、やっぱり小説っていいものだよなあ、何にも代替不可能な魅力があるよなあ、と再確認させる。
 
 世界観の構築と、読者との距離の取り方の巧みさで勝負している作品だと思う。物語のテンポは一定だし、驚くような事件もなければ、直接的に涙をさそうようなシーンもない。小説のテンポの変え方は映画なんかに比べると自由がきいて、そこが一つの旨味だと考えている。だから途中までは、こんな淡々としたテンポなら、映画にもできそうだなーと思ったが、最後まで読むと、これはやっぱり小説でなければならないと感じた。この世界と、この距離感は、小説で無くてはならないと。
 
 一度読んだあとに、プロローグの一節
 
・今にも泣き出しそうな顔を見ていると、今度はこの子のお母さんにも喜ばれるような花を持って帰らせてあげなくてはという気持ちになった。 
 これを読むと、あみ子だって、あみ子のペースで前に進んでるんだよなあと、思う。
 
 超おすすめ